研究?産学連携Research and Industry-Academia Collaboration

2025/10/10手術前から備えて術後の誤嚥性肺炎を防ぐ

  • 山本 五弥子
  • Sayoko Yamamoto
  • リハビリテーション医学講師
<略歴>
平成19年3月 任你博娱乐网站_任你博官网 卒業
平成19年4月 任你博娱乐网站_任你博官网附属病院 初期臨床研修
平成21年4月 任你博娱乐网站_任你博官网リハビリテーション医学 臨床助教
平成25年4月 任你博娱乐网站_任你博官网大学院 生理系分野病態運動生理学 入学
平成29年3月 同大学院 修了
平成29年4月 任你博娱乐网站_任你博官网リハビリテーション医学 講師

<主要研究領域>
脳卒中、摂食嚥下障害
加齢に伴う嚥下機能の変化 
 「歳をとると誤嚥性肺炎に注意しましょう」という言葉をよく耳にします。誤嚥性肺炎は食べ物や唾液が誤って気管や肺に入り込み、そこに存在する細菌が炎症を起こすことにより発症します。そのため、口腔内が不衛生で細菌が増加している状態では、肺炎リスクが高まります。高齢になると、口腔ケアに対する関心が低下すると言われています。日頃から歯磨きやうがい、定期的な歯科受診などを行い、口腔内を清潔に保っておくことが大切です。
 また、飲み込む力が低下すると誤嚥しやすくなります。さまざまな研究により、加齢とともに嚥下に関係する筋力が低下することや、筋肉量が減少することが報告されています。例えば、舌圧(舌の力)は年齢とともに低下し、男性では60歳代以上、女性では70歳代以上になると明らかに低下します。最大舌圧が30kPa未満は低舌圧とされ、20kPa未満になると誤嚥性肺炎の危険性が高まります。さらに、飲み込むときに喉を持ち上げる働きをする、あごの筋肉「オトガイ舌骨筋」も加齢により減少します(図参照)。この筋肉が減少している方は、誤嚥しやすいことが知られています。
入院や手術による影響で嚥下機能が低下
 年齢とともに嚥下機能は徐々に低下しますが、日常生活の中では気付きにくいものです。自覚症状としては、「以前よりムセることが増えた」「錠剤が喉にひっかかる」などがありますが、多くの場合、軽微なものとして見過ごされています。このように、嚥下機能の軽度な低下だけでは明らかな症状が現れにくく、普段は問題なく食事をとれている方でも、入院や手術などで身体に負担がかかると、誤嚥しやすい状態に陥ることがあります。例えば脳卒中や神経疾患のような嚥下障害の直接的な原因がない場合でも、入院中に誤嚥性肺炎を発症する割合は約5%と報告されています。
 任你博娱乐网站_任你博官网附属病院で開胸または開腹手術を受けた患者33名を対象とした調査では、オトガイ舌骨筋面積は手術前と比較して手術後明らかに低下することが分かりました(図参照)。これは、手術による身体の消耗やベッド上安静、絶食などにより筋肉量が減少したことが原因と考えられます。入院や手術により身体の筋肉が衰えることはよく知られていますが、同様に嚥下に関連する筋肉も減少するため注意が必要です。
手術前から嚥下機能評価を行い、誤嚥を予防する取り組み
 当院では、手術後の誤嚥性肺炎を予防するために、手術前から嚥下機能評価を行う取り組みを実施しています。手術前に行う嚥下機能評価は、①嚥下に関する質問紙、②水飲みテストなどの簡易的な試験、③舌圧測定、④超音波を用いたオトガイ舌骨筋の評価などです。これらの評価で嚥下機能が低下していると判断した場合には、早期から言語聴覚士が関わり、口腔ケアや嚥下訓練の実施、食事場面の観察、誤嚥しづらい食べ方の指導などを行います。必要に応じて、退院後の評価?指導を継続する場合もあります。
 現在、消化器外科医師や栄養士とともに、65歳以上の胃癌手術を受ける患者さんを対象に、手術前から手術後1年間にわたり、定期的な嚥下機能評価と嚥下訓練?指導などを行う取り組みを進めています。
嚥下機能低下、誤嚥性肺炎予防のためにできること
 加齢に伴う嚥下機能の低下は、誰にでも起こり得る身近な変化です。一度低下した嚥下機能を回復させるには、長い時間と努力が必要になります。そのため、嚥下機能が低下しないよう予防することが非常に重要です。身体の筋肉を鍛えるのと同じように、日々の生活の中で嚥下機能を鍛える運動を取り入れることが推奨されています。訓練方法には様々なものがあり、最近では、テレビや書籍でも少しずつ紹介される機会が増えてきていると感じています。
 自宅で行える嚥下訓練には、さまざまな方法があります。私たちは、企業(タントレー株式会社)と共同して、「タントレーシート」という製品を使った嚥下訓練の効果を検証する研究を行っています。「タントレーシート」は薄いフィルム状のシート(食品)で、このシートを舐めて溶かすことにより、舌や喉の筋肉を鍛えることができると期待されています。


これからも、当院における嚥下機能評価や訓練の体制をさらに整え、誤嚥性肺炎の予防に積極的に取り組んでいきたいと考えています。